第14回:天災によって出来形が消失した場合、工事完成義務は存続するのか?損害は誰が負担するのか?

大地震の津波で、建設中の構築物が流された場合の対応は?

当社では、民間企業から宅地造成工事を請け負い、工事に着手しました。ところが、工事中に大地震が発生し津波の被害に遭い、建設中であった擁壁等の構築物が流されてしまいました。お客様から、工事は今後どうなるのか教えてほしいと言われています。当社はどのように対応したらよいのでしょうか。

被災状況によって「履行不能」とされることが多いが
着手金等を返還する必要も出てくるので、契約時に取り決めを。


(※写真はイメージであり、本記事とは無関係です。)

今回の問題には、3つのポイントがあります。

  1. 工事完成債務の「履行不能」の判断基準
  2. 履行不能であると判断される場合の対応
  3. 履行不能ではないと判断された場合の対応

1.工事完成債務の「履行不能」の判断基準

民法上、契約上の債務が履行不能となった場合には、当該契約上の債務は消滅するとされています。今回のケースだと、工事中に出来形が津波により流されてしまい、工事完成債務が履行不能となるのかが問題となります。

この点の裁判例を見てみましょう。建設工事途中に阪神大震災で被災して建物が倒壊した事案では、物理的に続行可能でも履行不能との判断がなされています(神戸地裁平成12年1月26日判決)。この事案のように、物理的に工事が続行可能でも、当該工事に要する費用とのバランスにより社会通念上、履行不能と判断される場合があります。

そのため、出来形が倒壊したり、津波によるがれき等を除去するため莫大な追加費用を要したりする場合には、社会通念上履行不能と評価される可能性が高いといえます。

2.履行不能と判断された場合の対応

建設工事が履行不能と判断された場合、請負人の工事完成義務は消滅するため、工事を続行する必要がなくなります。一方、請負人は発注者に対して請負代金を請求できません(民法536条1項:債務者の危険負担)。つまり、流された構築物の建設費は、請負人が負担しなければなりません。ちなみに、民間(旧四会)連合協定工事請負契約約款には、天災など「不可抗力」による損害は、発注者と協議の上、重大な損害であると認められ、かつ請負⼈が善良な管理者としての注意をしたと認められれば、発注者が負担するという条項があります。

また、着手金等を受領している場合は、原則として返還する義務があります。

ただし、契約条項の解釈によっては、受領済みの着手金等は危険が債権者(発注者)に移転した合意があったととれるため、返還の必要がない場合もあります。


民間(旧四会)連合協定工事請負契約約款

3.履行不能ではないと判断された場合

建設工事が履行不能ではないと判断された場合、請負人は工事を続行しなければなりません。ただし、天災による工期遅延は、遅延損害金が発生しない可能性が高いといえます。

また、津波で生じた損害については、前述のとおり、民間(旧四会)連合協定工事請負契約約款によると、発注者が負担する場合もあります。

トラブルの未然防止策

請負業者は、天災が生じた場合に想定外の損害を負担する可能性があるため、契約時に発注者と協議し、契約約款にリスク回避のための条項を入れる必要があります。例えば、民間(旧四会)連合協定工事請負契約約款の利用は、リスク回避に有効です。その場合「重大な損害」にあたるかどうか、当事者間の協議でまとまらない可能性もあるので、例えば、「請負代金額の○割を超える費用が発生した場合には『重大な損害』が生じた」こととする特約条項を入れると良いでしょう。

なお、ほとんどの工事では建設工事保険に加入していると思われますが、この建設工事保険は天災の損害は免責とされており、別途火災保険に付帯する地震保険に加入するなどしなければ、万一の損害発生に備えられません。そのため、契約約款で天災による損害の負担について定めた条項を入れておく必要があります。

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