1.3DGSによるデジタルアーカイブとは
デジタルアーカイブとは、文化財、建築物、風景、展示物などをデジタルデータとして記録・保存し、将来にわたって閲覧や活用ができるようにする取り組みです。
従来は、写真や動画、図面、3Dモデルなどが記録手段として使われてきました。
3DGSでは、多方向から撮影した写真を基に、対象物や周辺空間を3次元的に再構築します。作成されたデータでは、利用者自身が視点を移動しながら、写真に近い見た目で空間を確認できます。
写真に近い見た目を保ちながら、3次元空間として自由な視点から閲覧できる点が、3DGSをアーカイブへ活用する大きな特徴です。
1-1.写真や動画との違い
写真や動画は、その時点の状況を手軽に記録できる方法です。
一方で、写真は撮影した構図、動画は撮影者が移動した経路でのみと、後から確認できる範囲が限定されます。
たとえば、写真を見た後に「もう少し右側から見たかった」「展示物の裏側を確認したかった」と思っても、撮影されていなければ確認することはできません。
3DGSでは、さまざまな方向から取得した画像を基に空間そのものを再構築します。そのため、作成後に視点を動かし、対象物を異なる位置や角度から見ることができます。
記録した画像を一枚ずつ見るのではなく、再構築された3次元空間を自由な視点から見るという点が、大きな違いです。
1-2.「形を残す」だけではなく「見た目を残す」
3次元データにはさまざまな種類があります。
一般的な3Dモデルでは、形状を作成したうえで表面の色や質感を表現する必要があります。一方、3DGSは撮影した画像をもとに、実際の対象に近い見た目で空間を表現することを得意としています。
3DGSは、入力された写真を基に、色や質感、表面の模様など、写真から得られる見た目の情報を生かし、実際の対象に近い見た目で空間を表現することを得意としています。
たとえば、歴史的な建築物であれば、建物の形状だけでなく、石材の風合いや壁面の装飾、経年変化による色むらなども含めた状態を視覚的に残すことができます。
このため3DGSは、対象の3次元的な位置関係だけでなく、「その場所がどのように見えていたか」を視覚的に残す技術として注目されています。
2.さまざまな業界で広がる3DGSの活用
3DGSは比較的新しい技術であり、現在も多くの分野で研究開発や実証が進められています。
一方、複数の写真から写実的な3次元空間を生成できる特徴は、従来の写真、動画、3Dモデルとは異なる情報の伝え方を可能にします。
ここでは、3DGSの特徴を生かせる代表的な分野を紹介します。
2-1.文化財・歴史的建築物のデジタル保存
3DGSとの親和性が高い分野の一つが、文化財や歴史的建築物のデジタルアーカイブです。
文化財や歴史的な建造物は、経年劣化、自然災害、火災、改修などによって、現在の状態が将来もそのまま残るとは限りません。
そこで、現況をデジタルデータとして保存しておくことで、将来の調査や研究、修復、教育などへ活用できます。
3DGSでは、建物や彫刻の形だけでなく、壁面の模様、石材の質感、細かな装飾、周囲の景観などを視覚的に残せます。
また、保存した3次元空間をインターネット上で公開すれば、現地へ行くことが難しい人も文化財を閲覧できます。
一般公開されていない場所や立ち入りが制限されている場所をデジタル上で公開するなど、「保存」と「公開」を両立する方法としても活用が期待されています。
2-2.博物館・観光施設のバーチャル体験
博物館や美術館、観光施設では、施設そのものを3次元空間として残し、バーチャル展示や施設案内へ活用することが考えられます。
従来のバーチャルツアーでは、360度写真を撮影した地点を移動しながら施設内を見る形式が多く使われています。
3DGSでは空間そのものが3次元化されるため、利用者が視点を変えながら展示物や周辺空間を確認できます。
これにより、現地を訪れる前の施設案内や、遠隔地からのバーチャル見学などへの展開が可能になります。
また、期間限定の展示やイベント会場を3DGSで保存すれば、展示終了後もデジタル空間として残せます。
「その時にしか存在しない空間」を後から閲覧できることも、3DGSによるアーカイブの特徴です。
2-3.不動産・店舗・宿泊施設の空間共有
住宅、店舗、ホテルなど、空間そのものが商品やサービスの価値につながる分野でも3DGSの活用が考えられます。
不動産では、物件写真だけでは部屋同士のつながりや奥行き、空間全体の雰囲気を把握しにくい場合があります。
3DGSで室内を再構築すれば、利用者自身が視点を移動しながら、内装や家具、部屋同士の関係を確認できます。
ホテルや宿泊施設では、客室だけでなく、ロビー、レストラン、共有スペースなどを3次元空間として公開することで、利用前に施設内を確認してもらうこともできます。
店舗では、改装前後の状態を記録したり、期間限定ショップやイベント空間を保存したりする用途も考えられます。
写真よりも空間全体を伝えやすいという3DGSの特徴を、販売促進や情報提供へ活用する方法です。
2-4.製造業における設備や工場の可視化
製造業では、工場や設備などの現実空間をデジタル上で可視化・管理する取り組みが進んでいます。こうした用途でも、3DGSによる写実的な空間表現を活用できる可能性があります。
作成したデータを共有することで、現地にいない担当者が設備周辺の状態を確認したり、新しい作業員が工場内の配置を事前に確認したりする用途が考えられます。
また、設備更新前の状態を3DGSで残しておけば、更新後との違いを視覚的に振り返ることもできます。
ただし、設備同士の正確な距離を測定したり、干渉解析を行ったりする場合には、CADモデルや計測データなど、目的に適したデータを併用する必要があります。
3DGSは、正確な設計情報を置き換えるのではなく、実際の空間を直感的に確認するための情報として活用できます。
2-5.ゲーム・映像制作への活用
3DGSは、ゲームや映像などのコンテンツ制作分野でも注目されています。
従来、実在する場所をゲームやCG映像に再現する場合、写真や計測データを参考にしながら3Dモデルを制作する必要がありました。
3DGSでは、実際の場所を多方向から撮影し、その画像から写実的な3次元空間を生成できます。
そのため、街並み、建築物、自然景観、室内など、現実に存在する空間をデジタルコンテンツへ取り込む手段として活用できます。
映像制作では、実写とCGの中間に位置するような表現として、実在する空間を自由なカメラワークで映すことも可能になります。
今後、3DGSデータを編集したり、ほかの3Dモデルと組み合わせたりする環境が整えば、ゲーム、映像、メタバースなどへの活用もさらに広がると考えられます。
3.3DGSとXRで広がる「記録から体験へ」
3DGSによって作成されたデータは、パソコンやスマートフォンの画面上で見るだけではありません。
VRやARなどのXR技術と組み合わせることで、記録した空間を「見る」だけでなく、「その中に入る」「現実空間に重ねる」といった体験へ発展させることができます。
ここで重要なのは、3DGSとXRは役割の異なる技術だという点です。3DGSが現実の空間を写実的な3次元データとして再現する技術であるのに対し、VRやARは、そのデータをどのように見せ、体験するかに関わる技術です。
一方、VRやARは、作成されたデジタル空間や情報を利用者がどのように体験するかに関わる技術です。
この二つを組み合わせることで、3DGSの利用方法は大きく広がります。
3-1.VRによる没入型の空間体験
3DGSで作成されたデータをVRヘッドセットで閲覧すれば、利用者は記録された空間の中に入り込むような形で体験できます。
たとえば、遠隔地にある文化財をVRで見学したり、すでに終了した展覧会を再び体験したりする用途が考えられます。
通常の写真や映像では、どこを見るかは撮影者によって決められています。
VRでは利用者自身が周囲を見回すため、興味のある場所へ視線を向けながら空間を体験できます。
教育分野でも、実際に訪れることが難しい場所を疑似体験する教材として利用できる可能性があります。
3DGSによる写実的な空間表現と、VRによる没入感を組み合わせることで、デジタルアーカイブを「保存された資料」から「体験できる資料」へ発展させることができます。
3-2.ARによる過去と現在の重ね合わせ
ARは、スマートフォンやタブレット、ARグラスなどを通して、現実空間へデジタル情報を重ねて表示する技術です。
対応するAR環境と組み合わせることで、現在の場所に過去の状態を重ねて見るといった活用も考えられます。
たとえば、かつて存在していた建築物を現在の街並みに重ねて表示したり、修復前の文化財を現在の状態と比較したりできます。
博物館では、展示品の過去の状態や、本来置かれていた環境をARで再現することも考えられます。
3DGSによる「過去の空間の保存」と、ARによる「現在の空間への提示」を組み合わせることで、時間の異なる空間を同じ場所で比較できるようになります。
3-3.時間を含めたデジタルアーカイブへ
3DGSの特徴をさらに広げる考え方が、同じ場所を異なる時期に記録することです。
たとえば、文化財であれば修復前と修復後、店舗であれば改装前と改装後、イベント会場であれば開催前、開催中、撤去後というように、時間ごとに3DGSデータを残します。
これにより、単一の3次元空間を保存するだけでなく、「その場所がどのように変化したか」もデジタル上で振り返ることができます。
写真でも時系列の変化を残すことはできますが、3DGSでは各時点の空間を自由な視点から確認できます。
同じ場所を時期ごとに3DGSで記録しておけば、「その場所がどのように変化したか」を3次元空間で振り返ることができます。
今後は、クラウドやXRなどの技術と組み合わせることで、離れた場所から過去の空間へアクセスし、複数人で共有するといった活用も期待されます。
▼3DGSデータの体験風景(協力:福井鉄道株式会社様)
4.まとめ
本記事では、3DGSによるデジタルアーカイブの特徴から、文化財、観光、不動産、製造、ゲーム・映像など、さまざまな分野で考えられる活用方法、さらにVR・ARとの組み合わせについて解説しました。
3DGSは、複数の写真から現実の物体や空間を3次元的に再構築し、写真に近い見た目で自由な視点から閲覧できる技術です。
その特徴を生かすことで、文化財の保存、展示空間のバーチャル公開、物件や施設の紹介、工場設備の共有、デジタルコンテンツ制作など、さまざまな用途への展開が考えられます。
さらに、VRと組み合わせれば、記録した空間を実際にその場所にいるような感覚で体験できます。ARを利用すれば、過去に記録した空間や対象物を現在の場所へ重ねて表示することもできます。
3DGSの価値は、単に写実的な3次元データを作成できることだけではありません。
これまで写真や動画として残していた情報を、「後から自由に見られる空間」として保存し、さらに「体験できる空間」へ展開できることにあります。
今後、撮影機器やデータ処理、クラウド、XRなどの技術が発展することで、3DGSはデジタルアーカイブ、遠隔共有、教育、観光、コンテンツ制作など、さらに幅広い分野で利用されていくと考えられます。
こうした他分野での活用方法を知ることは、3DGSを特定の業界に限定せず、「現実空間をどのように記録し、再利用するか」という視点で捉えることにもつながります。
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