1.建設分野で3DGSを活用する目的
3DGSも建設分野で扱う3次元データの一つですが、点群やBIM/CIMとは役割が異なります。
点群は、点ごとの位置座標を持ち、距離、高さ、面積、出来形などを定量的に確認する用途に適しています。BIM/CIMは、構造物の3次元形状に部材名や規格、施工情報などをひも付け、事業全体で情報を管理するための仕組みです。
これに対して3DGSは、撮影した時点の現場を、写真に近い質感を持った3次元空間として再現することを得意としています。
そのため、3DGSの主な役割は、精密な計測や設計ではなく、次のような用途にあります。
· 現場の状況を視覚的に記録する
· 離れた場所にいる関係者へ、必要な箇所とその周辺状況を共有する
· 工事前後や施工段階ごとの状態を残す
· 専門知識を持たない人にも現場を分かりやすく伝える
3DGSは、既存の工事写真や点群、BIM/CIMを置き換えるのではなく、現場の見た目や空間的な状況を補完するデータとして位置付けることが重要です。
施工管理や協議、維持管理などで後から確認する可能性が高い範囲を選び、利用目的に応じて撮影範囲やデータ品質を設定することが重要です。
1-1.工事写真との違い
工事写真は、施工状況や出来形、品質を証明するための重要な記録です。
一方、写真に残るのは、撮影者が選んだ視点と範囲に限られます。後から写真の外側を確認したり、別の角度から部材同士の位置関係を見たりすることはできません。
3DGSでは、記録したい対象とその周辺を複数の位置から撮影し、3次元空間として再構築します。完成したデータでは、利用者が視点を変えながら、対象箇所と周辺の状態を確認できます。
たとえば、配管の接続部を撮影する場合、工事写真では接続部を中心に記録します。3DGSを併用すれば、その配管が周辺の構造物や設備に対してどの位置にあるかも、後から空間内で確認できます。
ただし、3DGSデータが工事写真の代わりに正式な品質記録や検査資料になるとは限りません。対象工事の写真管理基準や検査要領に基づく記録は、別途必要です。
1-2.点群・BIM/CIMとの使い分け
点群、BIM/CIM、3DGSは、同じ3次元データでも得意とする情報が異なります。
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データ種別 |
得意とする役割・用途 |
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点群 |
現況地形や構造物の形状を計測し、設計データとの比較や出来形評価(数値計測)を行う場合 |
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BIM/CIM |
調査・設計・施工・維持管理の各段階で、計画形状や属性情報を継続管理・活用する基盤 |
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3DGS |
現場の色や質感、周辺環境、資材の配置などを、実際の見た目に近い状態で伝える(視覚的共有) |
このように、出来形を数値で確認する場合は点群、計画形状を確認する場合はBIM/CIM、周辺状況を視覚的に確認する場合は3DGSというように、目的に応じて使い分けます。
また、大規模な現場では、データ容量を抑えるために「点群で全体の形状を把握し、見た目を詳しく残したい箇所を3DGSで記録する」といった組み合わせが効果的です。
2.施工段階における3DGSの活用
施工段階では、現場の状態が日々変化します。
掘削、配筋、コンクリート打設、埋戻し、設備設置など、工程が進むことで見えなくなる部分も多く、必要な情報を適切なタイミングで記録することが重要です。
3DGSを活用すれば、特定の部材だけでなく、その周辺の施工状況も含めて3次元的に記録できます。
2-1.施工によって見えなくなる部分の記録
建設現場では、完成後に確認できなくなる部分が数多く存在します。
代表的なものには、次のような箇所があります。
- 埋戻し前の地下構造物や埋設配管
- コンクリート打設前の配筋
- 内装施工前の壁内設備
- 覆工前のトンネル内部
- 舗装前の路盤や地下埋設物
- 撤去予定の既設構造物
これらは通常、工事写真や出来形管理資料として記録されます。
3DGSを併用すると、対象箇所だけでなく、周辺の構造物、施工機械、仮設物、作業空間なども含めて記録できます。工事完成後に設備位置を確認する場合や、改修工事の事前調査を行う場合に、写真だけでは読み取りにくい位置関係を補完できます。
ただし、配管位置や部材寸法を正確に計測する用途では、必要な精度を確保した点群や測量データを使用する必要があります。
3DGSは、正確な寸法を測るためのデータというよりも、施工時の状態を後から見返すための視覚的な記録として活用できます。
2-2.施工進捗の記録と共有
工事の進捗管理では、定点写真、工程表、出来高数量などを用いて、計画と実績を比較します。
主要な施工箇所を工程ごとに撮影して3DGSデータを作成すれば、それぞれの時点における現場状況を3次元空間として保存できます。
たとえば、掘削前、掘削後、構造物施工中、埋戻し後というように、後から確認する可能性が高い工程や箇所を選んでデータを残します。関係者は、それぞれの時点における施工箇所とその周辺を自由な視点から確認できるため、写真だけでは把握しにくい変化や位置関係を確認しやすくなります。
特に大規模な現場では、現場全域を毎回3DGS化するのではなく、施工中のエリアや、後工程で見えなくなる部分、協議で確認したい箇所などに対象を絞ることで、撮影やデータ作成の負担を抑えられます。
現場担当者が撮影したデータをクラウドで共有すれば、事務所や発注者側から現地の状況を確認する用途にもつながります。
3DGSについても、BIM/CIMモデルや工程情報、点群などと組み合わせることで、設計上の計画と実際の現場状況を視覚的に共有する活用が考えられます。
なお、3DGSは施工状況の変化を視覚的に確認する用途には適していますが、正確な出来高や変位量を求める場合は、点群や測量結果などを使用する必要があります。
2-3.遠隔確認と関係者間の情報共有
建設現場では、発注者、施工会社、設計会社、専門工事会社など、多くの関係者が情報を共有します。
現場写真だけでは、撮影箇所の位置や周囲の状況が分からず、追加の説明や再撮影が必要になる場合があります。
3DGSで確認したい箇所とその周辺を記録しておけば、離れた場所にいる関係者も、必要な場所へ視点を移動しながら現場を確認できます。
たとえば、設計者へ納まりを相談する場合、問題箇所の写真だけでなく、その周囲を含む3次元空間を共有できます。設計図面やBIM/CIMモデルと併せて確認すれば、現況と計画の違いを理解しやすくなります。
遠隔確認では、協議したい箇所と、その位置関係を把握するために必要な周辺範囲を記録しておくことがポイントです。
3.災害対応・維持管理・XRへの展開
3DGSの活用対象は、施工中の現場だけではありません。
災害発生直後の状況保存、既設構造物の点検記録、補修工事前後の比較、VRを用いた現場教育など、維持管理や人材育成への応用も考えられます。
一方で、建設分野での3DGS利用は、研究開発や実証段階のものも多くあります。利用目的と必要な精度を整理し、既存の測量・点検方法を補完する形で導入することが重要です。
3-1.災害現場の状況保存
災害現場では、応急復旧、がれきの撤去、通行の確保などが優先されるため、発災直後の状態は短期間で変化します。
道路の崩落、河川護岸の損傷、斜面崩壊、橋梁や建築物の被害などについて、被災箇所とその周辺を3DGSで記録すれば、発災時の状況を後から視覚的に確認できます。
記録したデータは、関係機関との状況共有、復旧方針の説明、災害記録の保存などに活用できる可能性があります。
また、発災直後、応急復旧後、本復旧後というように、重要な箇所を時期ごとに記録すれば、復旧過程を3次元空間として振り返ることができます。
ただし、崩壊量、変位量、土砂量などを算出する場合は、測量精度を確保した点群データや地形データが必要です。
災害現場における3DGSは、被害量を計測する手段というよりも、被災箇所の見た目や周囲との位置関係を分かりやすく記録・共有する手段として捉える必要があります。
3-2.インフラ維持管理と補修履歴の記録
道路、橋梁、トンネル、河川施設などの維持管理では、定期的な点検と補修履歴の蓄積が必要です。
国土交通省は、BIM/CIMを通じて施工後の出来形、品質、点検・補修履歴などを蓄積し、維持管理に活用する考え方を示しています。
3DGSを併用すれば、点検時点における構造物の外観や周辺環境を、自由な視点から確認できる状態で保存できます。
たとえば、橋台周辺の漏水、トンネル内の変色、護岸周辺の植生、補修箇所の外観など、数値だけでは表しにくい状況を視覚的に残せます。
補修前後のデータを作成すれば、どの部分をどのように補修したかを、位置関係を含めて説明できます。過去の点検データと組み合わせることで、現地へ移動する前の事前確認にも利用できます。
一方、ひび割れ幅や変形、部材寸法などを評価する場合は、近接目視、計測機器、点群、画像解析など、目的に適した点検方法を使用する必要があります。
3DGSは点検そのものを代替するのではなく、点検結果や補修履歴を理解するための視覚的な情報として活用できます。
3-3.VR・ARによる現場教育と安全管理
3DGSで作成した現場空間は、パソコンやタブレットだけでなく、VRやARなどのXR技術と組み合わせて利用できます。
VRを使用すれば、作業員や技術者が、実際の現場に近い視点で施工場所を確認できます。
たとえば、着工前の新規入場者教育において、過去に記録した現場を使い、作業場所、重機の稼働範囲、立入禁止区域、避難経路などを説明する活用が考えられます。
危険箇所を文章や平面図だけで示すのではなく、現場空間の中で確認することで、高さ、狭さ、死角などをイメージしやすくなります。
また、若手技術者の教育では、施工途中の状態を記録した3DGSを教材として利用できます。完成後には見えなくなる配筋や仮設構造物、施工ヤードの配置などを、別の工事でも確認できます。
ARでは、現場でタブレットやARグラスを使い、過去の状態や完成イメージを現在の空間に重ねて表示する活用が考えられます。
3DGSとXRを組み合わせることで、現場の記録を保存するだけでなく、教育、説明、施工検討などに再利用できる可能性が広がります。
3-4.導入時に整理すべきポイント
建設現場で3DGSを導入する際は、最初に「何のために、どこまで記録するのか」を明確にする必要があります。
施工箇所の記録、関係者への説明、教育用コンテンツ、維持管理資料など、目的によって必要な撮影範囲やデータ品質は異なります。
特に、次の点を事前に整理することが重要です。
· 何を記録するのか
· どこまでの範囲を記録するのか
· いつ撮影するのか
· 誰がデータを閲覧するのか
· どの端末やソフトウェアで表示するのか
· 点群やBIM/CIMと連携するのか
· 保存期間やデータ管理方法をどうするのか
3DGSは広い空間にも利用できますが、対象範囲が広くなるほど、撮影やデータ作成にかかる負担も大きくなります。
そのため、大規模な現場では、現場全域を同じ品質で記録するのではなく、利用目的に応じて対象エリアを分けたり、記録する範囲を絞ったりする方法が現実的です。
たとえば、現場全体の形状や位置関係は点群やBIM/CIMで確認し、完成後に見えなくなる部分や複雑な取り合い部、協議対象となる箇所など、見た目を詳しく残したい範囲を3DGSで記録する方法が考えられます。
工事現場では、人や重機が動き、施工状況も短時間で変化します。動く対象が多い環境は、3DGSの再構築が不安定になりやすいため、撮影時間や撮影範囲を調整する必要があります。
また、現場内の人物、車両番号、周辺住宅、機密設備などが写り込む可能性もあります。関係者のプライバシーや工事情報の取り扱いを踏まえ、データの公開範囲やアクセス権限を設定する必要があります。
3DGSの導入効果は、広い範囲のデータを作成すること自体ではなく、必要な情報を適切な範囲で記録し、施工管理や教育、維持管理で継続的に利用できるかによって決まります。
▼ 【動画で解説】CSPI-EXPOで実演!TREND-POINTによる3DGSの活用ステージ
※こちらは、今年の「CSPI-EXPO」自社ブースにて行われた「TREND-POINT」ステージプレゼンから、3DGS(3D Gaussian Splatting)の紹介パートのみを限定公開として特別に抜粋した動画です。実際の画面で動く写実的な3次元空間をぜひご覧ください。
4.まとめ
本記事では、建設現場における3DGSの役割から、施工記録、進捗共有、災害対応、インフラ維持管理、XRを活用した現場教育までを解説しました。
3DGSは、複数の写真から現実の空間を再構築し、現場の色や質感、周辺環境を含めて、自由な視点から確認できる技術です。
施工段階では、埋戻しやコンクリート打設によって見えなくなる部分の記録、工程ごとの施工状況の保存、遠隔地にいる関係者との情報共有などへの活用が考えられます。
一方で、広い施工現場のすべてを3DGSとして記録する必要はありません。利用目的に応じて対象範囲を絞り、必要な箇所とその周辺を記録することが重要です。
正確な計測には点群、設計・施工情報の管理にはBIM/CIM、正式な品質記録には工事写真、現場の写実的な記録や共有には3DGSというように、それぞれの特性を生かして使い分けます。
今後は、これらのデータを目的に応じて組み合わせることで、施工から維持管理まで、現場の3次元情報をより幅広く活用していくことが期待されます。
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