点群データを幅広く活用し小規模ICT戦略を推進
~山梨県県土整備部がTREND-POINTを全出先の建設事務所へ~
現場の声に応える便利なツール開発と共に どう使えば効果的か、より良い使い方の提案にも期待
国土交通省が主導するi-Constructionを中心に、全国の自治体においてICT施工と建設DXを推進する新しい流れが生まれています。中でも積極的な取り組みを進める自治体の一つ、山梨県の県土整備部では、2022 年3月新たに3D点群処理システム「TREND-POINT」の導入を決定。県土整備部の全出先の建設事務所への普及を開始しました。3D点群データの幅広い活用を目指す、この新たな展開の背景と今後の計画について、山梨県県土整備部技術管理課の加藤秀紀氏と天野泰人氏にお話を伺いました。
小規模ICT施工で取り組みを進める
「山梨県におけるICT施工の取り組みが始まったのは、平成28年度(2016年)のことです」。そう語るのは山梨県県土整備部技術管理課の技術情報担当の天野泰人氏です。天野氏によれば、その取り組みは大規模盛土工事などを対象とするICT活用試行工事として開始されました。「山梨県における地理的な特徴として、急峻で狭隘な地形が多いため、小規模ICT施工を活用する工事が着実に増えてきています。こういった状況を踏まえて、今後も積極的に推進していくような方向で考えています」。
さらに、実際にICT施工に取り組む現場の状況について、同じく県土整備部技術管理課の加藤秀紀氏は語ります。「現場からの声を聞いてみると、国が示しているICTに関する全国標準的なものとは少々違う結果も出ていているようです。やはり、実際にフィールドに展開してみないと分からない部分も多々あるようだと感じています」。たとえば──と加藤氏は言葉を続けます。山梨県特有の渓谷地形の現場等では、ICT建機によるMC/MGの施工で、ブルドーザーが斜面際に寄った際にエラーが出てしまうなどの事例が報告されており、予想外の事態に直面することもあるようです。
こうしたことから、現在、県土整備部が注力しているのが小規模ICTと呼ばれる手法の普及です。山梨県の公共工事の現場は道路や河川など多岐に渡りますが、各現場の工事全体を一気にICT施工に切り替えるのではなく、取り組みやすい作業パートに絞り込んで、部分的かつ効果的なICTを実施しようというものです。「たとえば“EX-TREND武蔵”で3D設計データを作り、“FIELD-TERRACE”とトプコンの“杭ナビ”を連携させた出来形管理など小規模ICTと言えるでしょう」(天野氏)。
ここには「どのICT技術でも良いので、取り掛かりやすいものから始めてほしい」という狙いがあります。国交省のICT活用工事実施要領にはICT技術が5つ挙げられていますが、どれでも取り組みやすいものから挑戦してほしいというわけです。「ICT施工という新しい技術は、受注者にとって未知の部分が多々あります。ですからまずは“やってみましょう”ということで、取りかかりの入口はできるだけ広いものとしており、県土整備部のICT活用工事試行要領も、そのような考えで運用しています」(天野氏)。そして、このような流れの中で新たに決定したのが、TREND-POINTの導入です。
全出先の建設事務所へTREND-POINTを配置
「ICTの今後の展開において3次元化は重要なポイントとなり、これに取り組んでいくならば、そして、建設現場の生産性向上と言う観点からも、3D点群データの活用が喫緊の課題となります。こうした展開を見据えて導入したのが、TREND-POINTなのです」。そう語る天野氏によれば、導入数は総計10セットで、技術管理課はもちろん県土整備部の各出先の建設事務所に各1台ずつ配備されました。そして、すぐに基本操作研修も行われました。講師には福井コンピュータの担当者を招聘し、実際にTREND-POINTを配備した出先機関等に呼びかけて参加を募り、この6月に実施されました。当日は全出先機関から総計34名の職員が受講したほか、天野氏自身も受講者として研修に参加。約半日、点群の基礎を学び、TREND-POINTの基本操作を体験しました。
「私も初めてTREND-POINTで3次元の点群データに触れ、“これから活用していこう”という実感が得られました。また、TREND-POINTについては“非常に使いやすいソフト”と感じました。特に地形モデルの任意の断面を抽出できる機能はとても役立ちそうです」(天野氏)。研修終了後、参加者たちに感想を問うアンケートが実施されました。その結果集計を見ると、初めてTREND-POINTに触れる方が全受講者の9割強を占めていたにも関わらず、研修に参加した全員が「大変理解できた」と「まあまあ理解できた」と回答し、さらに「大変有意義だった」「まあまあ有意義だった」を合せると、9割強の方が操作習得について有意義だったと答えています。
「これは私の想像ですが、研修に参加してくれた職員はすでに一度現場でICT施工を経験した方が多いのだと思います。そこでICTに関する土台を自分なりに高めた上で研修を受けたから、“これは現場で使える!”という実感を得られたのだと考えています」。こういった一種の成功体験が重要なのだ──と加藤氏は語ります。ただ単にツールを配布するだけでは、普及はなかなか進みません。実際にTREND-POINTを用いてICT施工を行う現場とタイアップしながら、「こんな風に使っていくと効果的だ」と職員一人一人に体感させ、さらにその情報を広く共有していくことが重要になるだろう、と加藤氏は指摘します。
3D点群データの多彩な活用へ
「たとえば道路管理者等も、道路管理に活用するためのデータをすでに点群で取り始めています。他にも点群データが採取される機会はどんどん拡大しています。それらのデータをストックしておけば、活用法はいろいろ考えられるでしょう」と、加藤氏は今後の点群データの活用について展望を語ってくれました。たとえば道路等で何か地形等の異常が検知された場合、以前なら職員が現地まで実際に足を運び、テープを当てて調べて分析していく必要がありました。しかし、現在は元の地形の点群データさえあれば、3Dレーザースキャンで点群を取って即座に「こういう現象なのか」と判断することができます。「あるいは“ここに土の盛土が何立米ある”といった情報も、危険を冒さずに即座に把握できるわけです。結果、対応の次の一手をスピーディに、より効果的に打ち出せるようになるわけです」。
山梨県県土整備部によるICT施工の普及としては、ここまで紹介した以外にもさまざまな取り組みが始まっています。令和2年度には国交省・甲府河川国道・富士川砂防や、県内の建設業関係者に呼びかけて山梨県i-Construction推進連携会議を立ち上げ、山梨県ならではのICT活用方法について協議を重ねてきました。たとえば、前述した小規模ICTの普及の方針もここでの議論がベースにあります。さらに、この小規模ICTを受注者に広く知ってもらうため、昨年から受注者を対象に小規模ICT施工体験会や講習会も実施しているとのことでした。
もちろんICT施工用途以外の点群データの具体的な活用については、これからが本番です。県土整備部としては、具体的な計画を打ち出していくためにも、まずはICT施工の普及をいっそう加速していこうと考えています。「たとえば測量では、ドローンや3Dレーザースキャナーで点群を取ることで大きく手間が省けます。実際“点群を取りたい”と言う現場が増えているし、“崖の作業は危険なので最初から点群で”という声もあります。点群データ活用への期待は確実に広まっています」。その意味でも、福井コンピュータへ期待するものは大きいのだ、と加藤氏は言います。
「福井コンピュータは、電子納品が始まった頃から一貫して官庁が求める要望に確実に応え続けてくれました。今後もそうした声に応えて便利なツール開発を期待するのはもちろん、それをどう使えば効果的か、より良い使い方も合わせて提案してもらえれば──と考えています」。
(取材:2022年7月)
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