危険きわまりない法面作業にICTを活用!
「現場の安全」のための新たなi-Construction
現場の3Dデータは容易に作れて用途は無限
どんどん作りどんどん使わないと勿体ない!
山梨県南アルプス市の湯澤工業は、公共土木を中心とする土木建設業と、産業廃棄物の中間処理やバイオマス事業の2本柱で展開する建設会社です。当初、下請けの専門工事会社としてスタートしましたが、高い技術で実績を積み重ね、地場の元請け工事会社として確固たる地位を築いています。それだけに地域で最も早くからi-Constructionの導入も進めており、特に「現場の安全」に重点を置いた独自のi-Con工事で注目を集めています。そのi-Con戦略について担当の湯沢信氏と湯沢満氏に伺います。
YDNを知りi-Conへの挑戦を開始
- 元は専門工事会社だったそうですね?
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湯沢信氏
ええ、祖父が2tダンプ1台で始めた会社です。元は下請けの仕事が中心でしたが、現在では国交省の現場も年4~5本取れるようになり、大小取り混ぜ年間50現場ほど動かすようになっています。現場はどこも良い成績をいただいていますし、きちんと利益もあげています。現場の人の技術はもちろん意識が高く、これが1番の武器でしょう。また、企業が実力を問われる時代となったのも追風になっています。当社も新しい流れを取り入れ、一歩でも二歩でも先を行きたいですね。
- i-Constructionの取組みもその一環で?
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湯沢信氏
一番のきっかけは、偶然読んだ「やんちゃな土木ネットワーク(YDN)」の記事です。YDNは最新土木技術の活用を目指す建設業ネットワーク組織ですが、そのYDNのICT活用記事を読み、感銘を受けました。大企業の事例ならともかく、私たちと同じ中小企業がやっていることに驚いたのです。中小企業の多くが、ICTや3Dの活用など「ことさらやる必要のないプラスアルファの仕事」と考えていたのに、あえてそれに挑む彼らは、常識外れの面白すぎる人たちだ、と(笑)。そこで2016年暮にお会いして話を伺って、いろいろ見えてきたものがあったのです。
▼やんちゃな土木ネットワーク(YDN)
土木技術者の声に応える建設業者のネットワーク組織。土木の新技術の使用実績や提案資料を収集・共有し、問題解決の手段やツールの情報、新規事業情報等を提供する。
- 見えてきたものとは?
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湯沢信氏
3次元で仕事をすることにはメリットしかない、という実感です。3次元設計データを活用すれば発注者との協議は格段にスピードアップするし、現地の3次元測量データに3次元設計データを重ね合わせれば、現地との不一致も瞬時に確認できます。以前のように丁張を作って発注者と現地を確認するなど何度も現場を行き来して協議を重ねたり、資料を作る必要もなくなり、効率的に打ち合わせできます。また、3次元データは伝わりやすいから資料としての効果も抜群です。
- 3次元導入で現場も変わりましたか
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湯沢信氏
ようやく現場に3次元データが浸透し始めた段階ですが、現場にタブレットが持ち込まれるようになりましたね。何しろ初めて3次元データに触れた社員は必ず感動し、1週間後にはレベルを使わなくなるんです(笑)。さらに3次元データを自分で作りたくなる、という良い循環も生まれています。とにかく社員には仕事を楽しんでほしいので、現場を楽に、楽しくできる仕組みとして3次元を社内に浸透させたいと考えています。
- 実際のICTの導入はどのように?
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湯沢信氏
まずはICTが「会社に必要なもの」だと社長に認めてもらう必要がありました。しかし、当時はICTが何か説明するのも難しくて……ICT技術など無くても十分仕事はこなせるし、ICT機器は高価なので、社長に限らず「無駄な投資」という意識が強かったのです。そんなとき「ものづくり補助金」の制度を知り、これを使ってi-Conに必要なツールを揃えようと考えました。その時はすでに申込の締切り1週間前だったので、正月休み中に慌てて書き上げて申請し、幸い認められて一式導入できました。
- 導入したツールは?
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湯沢信氏
3DレーザースキャナーとTRENDPOINT、TREND-CORE……これだけ揃えればi-Conに対応できます。福井コンピュータ製品を選んだのは、以前からEX-TREND武蔵ユーザーで製品への信頼があったからです。導入後はまず、電話サポート等を利用して私自身が操作を習得。レーザースキャナーも現場に持ち込んで試用しました。現場で本格的にICTを運用したのはその半年後。正式なi-Con現場として届け出て実施したのは、それからさらに半年後のことです。
- ICT担当が常務一人では大変なのでは?
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湯沢信氏
実はその頃、東京で建築士をしていた弟が帰ってきたんです。そこでPOINTやCOREを勉強させてi-Con担当になってもらいました。だからいまは2人体制なんです。
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湯沢満氏
入社後すぐ、YDNの会員企業へ修業に行かせてもらったんです。そこでICTの達人に密着してじっくり学びました。ICT現場も最初から最後まで体験し、大いに鍛えられましたね。
安全性向上のためのICT
- i-Con現場の取組をご紹介ください
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湯沢信氏
完了済みなのは2現場あります。最初は2017年11月頃から取組んだ現場でi-Conをフルに実施しましたが、ここでは点群で3Dモデルを作ることで完工状況が正確に予測できるメリットを痛感しました。以前は丁張をかけてようやく「こういう感じ」と分かるのに、モデルを作れば即座にそれを把握し、良し悪しを判断して協議に持っていける。スピーディかつ安全です。このメリットをより強く意識したのが、2つ目のi-Con現場「小武川崩壊地対策工事」でした。
- 小武川の現場はどんな現場でしたか
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湯沢信氏
小武川に面した急峻な崖の崩壊を防ぐための工事で、2018年3月に着工し同年11月に完工しました。内容は1,300㎡の法枠工に鉄筋挿入工が900mで、法面の危険箇所全面に法枠を設置する工事です。問題はこれが非常に急峻な法面だった点で……山梨に多い地形ですが、こうした現場では、計測も施工も斜面に張り付けたネットやロープでぶら下がり、ロッククライミングのようにして行うしかなく、危険極まりない作業となります。
- ではMCで無人化を?
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湯沢信氏
山あいの現場なのでGPSが使えず重機も入れないため、施工は手作業でやるしかありません。そこでそれ以外の作業にICTを使って危険を抑え、負担を軽減して安全性向上を図ろうと考えました。宙づりで行っていた法面吹付面積の出来形管理を、3Dレーザースキャナーでやろうというわけです。ICT施工でMC/MGはつかえませんが、出来形管理でのICT技術活用を認めていただくことが出来ました。その結果「ICT技術は安全性の向上に繋がる」ということを発信できる現場になったと思います。ICTの活用は今後もっと広がってくると感じています。
3Dデータをとことん使い尽くしたい
- 実際の作業内容をご紹介ください
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湯沢信氏
まず法面成形時の土量変化確認のため着工前計測を行い、次に法面整形の完了時点で法枠の厚みや掘削土量を確認するために計測。3度目はラス網設置時でラス網面積の確認のために行い、さらに完成後も面積や梁長、モルタル厚等の検測・検証のためデータを採取しました。ただ、今回は初めてということもあり、通常工法と2本立てで行っています。現場には苦労をかけましたが、それだけの成果は上がっています。
- 成果と感想をお聞かせください
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湯沢信氏
完成時の法枠工面積の測定結果は、問題なく求積できる精度が出ました。このデータが数量算出根拠として認められれば、出来形管理での危険なぶら下がり作業は不要になります。安全性向上、現場の負担軽減という点で大きな効果があったと言えますね。発注者も十分使えるデータという認識です。また、3Dモデルを利用した掘削土量の算出や梁長の計測等も良好な結果が出ています。
- TREND-CORE VRも試用したとか
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湯沢信氏
今回はVRによる現地の計測を試しました。それも点群データをそのままVRで見て、バーチャル空間内で計測する手法です。通常は法面完成後も計測のため足場等を残しますが、この手法ならいつでも目で見て好きな箇所を計測できます。実運用にはまだ難しい部分もありますが、大いに期待したいですね。また、伝えるということに関して、VRにはずば抜けた力があります。これをどう活用していくか、今後の重要な課題です。
- 今後の展開についてお聞かせください
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湯沢信氏
喫緊の課題は社内へのICT普及です。現場の技術者には各現場の3Dデータを入れたタブレットを支給しており、活用も徐々に広がり始めています。「この構造を変えたいから、TREND-POINTやTREND-COREの使い方を教えてくれ」という声も聞くようになりましたし、次の現場では自分たちで3D設計データを作ってくれるのではないかと期待しています。とにかく3Dデータを作るのは難しくないし、用途はいくらでもあるわけですから、どんどん作りどんどん使わなければ勿体ないですよ!
※役職などは2018年冬、取材当時のものです。
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