現場AR(拡張現実)で切り開くコミュニケーション新時代
TREND-COREとCIMPHONY plusを活かし、現場で、客先で、3Dデータを幅広く活用
北海道帯広市の萩原建設工業は、創業100年を超える歴史を持つ総合建設会社。十勝帯広エリアを中心に北海道全域から首都圏まで、多様な土木建築事業を展開している。老舗ながら進取の気性に富む同社は新技術への積極的な挑戦で知られ、土木分野ではICT技術の内製化を推進している。その最新の取り組みの一つが、iPadを用いた現場AR(拡張現実)である。取り組みの詳細について、同社土木部の江本啓二氏、高山正宏氏、岩間輝氏にお話を伺った。
ICT施工技術の全てを内製化していく
- 長い歴史をお持ちの会社ですね
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高山氏
4年前に100周年を迎えた、土木建築がメインの総合建設会社です。土木では公共事業を中心に道路から河川、港湾など何でもオールマイティに取り組んでおり、建築も公共事業から民間工事まで幅広く手がけています。最近は設計施工案件にも積極的に取り組んでいます。
- ICT施工への取り組みはいつごろから?
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高山氏
取り組み開始は、i-Constructionが本格的に始まった2016年からです。当初は発注者から指定された現場で各分野の専門業者に協力を仰ぎながら進めていましたが、経験を積むうちICTの施工技術が今後の土木に不可欠なツールだと痛感し、方針を転換。ICT施工関連の技術を全て内製化し、社内で管理できる体制を整備してきました。2017年からは特にUAVによる3D測量に注力し、2018年以降ほぼ全ての計測を自社で行っています。さらに2021年には3Dレーザースキャナー等も導入。地上型レーザースキャナーやUAV搭載型レーザースキャナーによる高精度な3D測量も開始しました。
- 3D測量を日常的にお使いなのですね
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高山氏
ええ。特にUAVについては、私たち技術管理課の専属チームによる計測だけで年間200フライト以上。それとは別に、現場の技術者が独自に習得して行っているフライトもかなり増えているようで、まさに「普段使い」ができている状況かな、と思っています。
- 顕著な効果は上がっていますか
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高山氏
3D測量に限っても効率化は明らかで、特に広範囲の測量が必要な時は効果的です。人が測量していた頃に比べ、UAVを飛ばして結果を解析するだけで全て計測できるわけですから。実際、いまではICT現場はもちろん、それ以外の通常現場も含め、ほぼ全現場で「パッと行ってパッと撮ってくる」状況ができつつあります。そうやって起工段階に一度3D計測を行い、そのデータを測量や打ち合せに活用していくわけです。特に関係者間のイメージ共有には、やはり3Dの方がやりやすいし効果的です。最近では福井コンピュータのTREND-COREとCIMPHONY plus、TerraceAR(ネクステラス社)を組み合わせBIM/CIMモデルを現場で確認できるARの活用も始めていますよ。
工事内容を分りやすく・正しく伝えるために
- 現場でARを活用しているのですか?
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江本氏
ARの利用は2020年からです。この年にBIM/CIMの本格的な取り組みが始まったことから、まず3Dモデルを作成してみようということで前年に導入したTREND-COREを練習を兼ねて使い始めました。そして、作った3Dモデルの活用法をいろいろ模索するうちARの手法を知り、とにかく試してみよう・チャレンジしようという思いで使い始めました。
- 実際の現場でのAR運用は?
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江本氏
一番最初は同じ年の港湾工事の現場でしたね。地中改良工事でしたが、何しろ地中なので、それがどんな工事になるのか近隣の方もイメージしづらい……ということで、TRENDCOREで作った構造物の3DモデルをARで現地に重ね合わせてお見せして、工事内容を正しく理解していただこうと考えたわけです。そして二つ目が2021年に工事受注した高規格道路の現場です。ボックスカルバートの埋設でしたが、ここも地権者に工事内容を理解していただいて協力を得る必要があり、ARを使いました。
- もう少し詳しくご紹介いただけますか
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江本氏
まずボックスカルバートの施工のため、作業ヤード等のスペースを確保する必要がありました。同様に施工のため現道を迂回させる必要があったのですが、この作業ヤードを躱して迂回路を作るとなるとボックスカルバートの両側の農地等を借地するしかありません。そのため、まず地権者の方に工事内容を分りやすく説明して当該農地を借地することの必要性を理解し、納得してもらわなければなりません。そこで「ARを使おう!」ということになりました。
- 説明が難しい現場だったのですか?
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江本氏
構造物を地中に埋設してしまう工事なので一般の方にはイメージし難いでしょう。しかも、全面的なICTの活用現場だったため丁張等もなく、余計イメージし難い環境だったと思います。経験がある私たちならある程度想像しながら理解していくことができるかもしれませんが、一般の方に迂回路の必要性まで理解できるかな?という懸念がありました。そこで工事をARによって「見える化」してイメージしやすくし、「ここにこんな風にボックスカルバートができます」「作業ヤードのこの辺りから出てきてここで掘削するので、こういった迂回路が必要になります」と、内容がきちんと伝わる説明で一般の方も納得していただけるようにしたい、そんな思いで取り組みました。
- 実際の効果はいかがでしたか?
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江本氏
正直なところ「すごい!」と驚かれるような反応はなかったのですが、分りやすかったらしく、工事内容はイメージしていただけたと思います。また、副次的な効果として発注者さんにもお見せして「凄いね!」という意見をいただきましたし、私たち施工者側も着手前に「どの辺にどういうものがどういう風にできるか?」「どの辺が掘削の始まりに?」などイメージしやすかったですね。影響範囲が具体的にイメージできるので、資材置場を現地のどの辺に置くか?といったことも考えやすく、施工計画にも役立てられると思います。
使いやすく便利なTREND-CORE
- TREND-COREで3Dモデルを作ったのは?
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岩間氏
前回の港湾工事の現場も今回の高規格道路の現場でも、私がTREND-COREで3Dモデルを作りました。実は初めてTREND-COREに触れ3Dモデル作りしたのがこの港湾工事でした。以前は私も現場担当で3次元設計データの作成経験はありましたが、BIM/CIMモデルのような完璧な工事モデルはそれが初めてでした
が、TREND-COREの基本操作は1週間ほどで覚えられました。それくらい簡単だったのです。実際、実案件で使ったのもTREND-COREを触り始めて1カ月半くらいでしたが、それでもちゃんとしたモデルに仕上がるのですから、使いやすいツールであることは確かでしょう。
- 「使いやすさ」の背景にあるのは?
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岩間氏
基本操作が直感的で分りやすい点が一番大きいですね。たとえばTREND-COREを開いていて「この操作を試したい」「こういう物が欲しい」と感じたら、ツールバーを見てすぐ「この機能を使えば良い」と分かります。操作に慣れてなくても迷うことが少なく、スムーズに進められるわけです。今回も形状的にはけっこう複雑なボックスカルバートでしたが、簡単に作成できました。また、多数の3D部品を標準搭載しており、バックホウやトラックなどを一から作ったりせずに済むのも非常に便利です。
- CIMPHONY Plusについてはどうですか?
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江本氏
CIMPHONYそのものは昨年から使っており、TREND-COREで作った3DモデルやUAVで取った点群データをCIMPHONY Plus経由で現場の打ち合せに使ったりタブレットで持ち出して発注者に見せたり、普段使いしています。現場は日々状況が変わり2D図面では表わしきれませんから、CIMPHONY Plusで3Dモデルを気軽に使えるのは非常に効果的です。
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岩間氏
このCIMPHONY PlusとTerraceARが今回新たに連携したと聞きました。これで変換等の手間が減り、作った3DモデルをそのままARで現場に投影できるようになるわけで……ARの活用はどんどん加速すると思いますね。
(取材:2022年3月)
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